自信と謙虚さ----新人医師へ

医師という職業はサービス業に分類される.何らかの問題を解決してもらいたいために外来を受診した患者は、病院を去るとき「受診して良かった」と思えることが必要である.医師は多少うそをついても、自信を持って患者に説明し、安心を与えることも重要な仕事の一つある.

現代の大学の入学選抜テストではマークシート方式が多く、自分で患者の問題点をみつけ解決していくという問題解決型の教育は取られていない.医学部へ入学後もこのような知識伝授型教育が主であり、卒業時の医師国家試験ではただ一つの答えがある多肢選択問題である.しかし、医師となり実際に医療の現場にでると、患者の持つ一つの問題に対して種々の回答があることがわかる.同じ疾患であっても、患者の好み、患者をとりまくまわりの環境で正解(治療法や説明方法)は異なる.つまり、ある人には正解であっても、ある人には間違いであることもある.

本院にも毎年多くの研修医が採用される.臨床医にとって一番重要である患者への説明では、研修医の性格がでるように思う.「知識がありすぎて不安げに説明する人」、「知識がないため不安げに説明する人」、「知識があって自信たっぷりに説明する人」、「知識があるが医学の限界を知って説明する人」と千差万別である.患者のもつ疾患に対し、教科書、文献を網羅し、自分の治療法や説明は全く問題がないと言い張る研修医もいる.またそのようにして、万が一、結果が悪ければ、本人は非がなく患者の方が悪いと思っている.そのような高名なベテラン医師も多い.しかし、医師はたとえベテランの域に達しても、常に自分が行っている医療が正しいかを自問自答すべきである.医療は数学ではないのである.現在では正解であっても、10年後では間違っている可能性がある.一方で自信をもって患者に信頼をえるような説明ができるように勉学に励むと同時に、自分が行っている医療の評価について謙虚に多くの人の意見を求め、反省する気持ちも大切である.

新人医師に「自信と謙虚さ」という言葉を贈りたい.